科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

民主党の科学技術政策を振り返る

 2009年に政権が交代してから3年あまり。民主党の科学技術政策を大まかに振り返りたいと思います。

 2009年のマニフェスト
http://d.hatena.ne.jp/scicom/20090812/p2

 公開質問状の答え
http://d.hatena.ne.jp/scicom/20090808/p1

 なども参考に、振り返ってみたいと思います。

 科学技術以外は言論NPOの未来選択2012
http://mirai-sentaku.net/

 が詳しいです。

  国際人権A規約(締約国160カ国)の13条における「高等教育無償化条項」の留保を撤回するなど、公約通りにいった部分もあります。

 また、奨学金に関しては
http://www8.cao.go.jp/cstp/stsonota/kenkyukai/houkokusho.pdf

にあるように、大学の授業料免除の拡充、「所得連動返還型無利子奨学金制度」の新設など、一定の成果があったように思います。

 また、科研費の一部基金化など、研究者の要望を聞き入れた制度改革は評価すべきだと思います。科学・技術関係予算の重点化・効率化に向けたアクション・プラン
http://www8.cao.go.jp/cstp/budget/action.html

 も、民主党政権の取組です。

 ただ、マニフェストの項目で未達成なものもあります。

 国立大学法人の運営費交付金は削減されています。
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2011/01/21/1301671_019.pdf
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/028/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2012/05/18/1320934_2.pdf

 運営費交付金事業仕分けでも取り上げられました。
http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov25kekka/3-51.pdf

 結果は国立大学のあり方を含め見直しを行うとなったわけです。

 純粋に金額からみれば、公約を達成できなかったと言えるでしょう。

 また、「科学技術戦略本部(仮称)」に関しては、政権末期に「総合科学技術・イノベーション会議」として閣議決定されましたが、解散で流れてしまいました。

総合科技会議、改組を閣議決定
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGG09005_Z01C12A1EB1000/

第一八一回
閣第六号
内閣府設置法の一部を改正する法律案
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/181/pdf/t031810061810.pdf
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g18105006.htm

科学技術イノベーション政策推進のための
有識者研究会
報告書
http://www8.cao.go.jp/cstp/stsonota/kenkyukai/houkokusho.pdf

からは後退した内容になっています。「省庁横断的な研究プロジェクトや基礎研究と実用化の一体的な推進を図」るとされている部分も、結局うまくいかなかったようです。上記記事では

「昨年12月の有識者会合で示した「科学技術イノベーション顧問」の新設や、関係省庁に勧告する権利を新組織に付与することは見送り、既存の制度内で運用を工夫する」とされています。

よって、これも未達成と言わざるを得ません。

 そして、2009年の事業仕分けで多くの事業が取り上げられ、縮減や廃止の判定を受けました。
http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/shiryo.html

 もちろん、科学技術を一層発展させるというマニフェストの記載と、無駄をなくすという事業仕分けの方針は矛盾するものではありません。ただ、特別研究員事業の縮減の判定など、とくに若手研究者のマインドにマイナスの効果を与えてしまいました。

 このほか、2012年には運営費交付金の50%停止といったこともありました。

国立大交付金50%停止 公債法案未成立で
http://www.47news.jp/CN/201208/CN2012083101001394.html

 国立大学の給料削減も、大きな話題になりました。

文部科学省所管独立行政法人国立大学法人等及び特殊法人の役員の報酬等及び職員の給与の水準(平成23年度)の公表についてhttp://blog.goo.ne.jp/la_old_september/e/0d1bb84bda97d7c89fa10b1839774c78

 震災や経済情勢の悪化などを考えると、科学技術のみが優遇されるべき、と主張することは難しいとは思います。とくに震災や原発事故以降、科学技術への信頼は低下しており、国民からの目は厳しいものがあります。

 また、世界各国で予算の減額は行われており(顕著な例はイギリスなど)、政権だけの問題とは言いがたい面もあります。科学技術が「聖域」でいられるはずはありません。

 しかし、こうしたことが、科学技術は重要ではない、というメッセージとなってしまい、研究者の気持ちを萎えさせたのは事実だと思います。総理が出席する総合科学技術会議があまり開催されないこと、総合科学技術会議が根拠を失うといったことも、民主党政権の「科学オンチ」ぶりを示したといえるでしょう。

総合科学技術会議が法律上存在しない事態に
http://scienceportal.jp/news/daily/1201/1201052.html

 労働契約法の改正
http://www8.cao.go.jp/cstp/output/20120531_roudoukeiyaku.pdf

 も、研究者を心配させました。

 ただ、こうしたことはマイナス面ばかりではありません。事業仕分けの直後、多く研究者、とくに若手研究者が声を挙げました。そして、神経科学者SNSが出した提言
http://d.hatena.ne.jp/scicom/20100206/p1

 のように、ただ文句を言うだけではない動きが出てきたことは大きいことだと思います。

 トップ研究者だけでなく、私のような若手や異端の研究者の意見を聞こうとした姿勢は評価すべきだと思いますし、また、科学技術コミュニケーションのように、政権交代後にはほとんど認識していなかった課題にも、ある程度対応していたように思います(科学の甲子園など)。また、総合科学技術会議の会議の議事録公開も含め、政策決定課程が透明化しつつある点もよい点だとは思います。こうした流れは、次期政権がどうなろうと、後退させないで欲しいと思います。

 民主党政権の特徴で言えるのは、先に挙げたように、ボールを私達に投げてくることが多かったということです。たとえば、パブリックコメントを募集することは多かったですし、
http://d.hatena.ne.jp/scicom/20101019/p1

研究費の使いにくさの問題は、文科省の熟議のなかで取り上げられました。
http://jukugi.mext.go.jp/jukugi?jukugi_id=10

 しかし、こうしたボールを打ち返す研究者が少なかったのも事実です。熟議の発言件数は、教育などと比べ少なかったといいます。

 民主党政権時代に作られた第4期科学技術基本計画
http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/kihon4.html

 では、政策の企画立案及び推進への国民参画の促進が謳われています。
http://hideyukihirakawa.com/blog/archives/201010/200534.php

 「国民参加」は参加する国民がいなければ成立しないわけで、当たり前といえば当たり前ですが、我々が皆当事者である意識が必要です。

 政権がどうなろうと、当事者が動くこと。これは忘れてはいけないと思います。誰かに文句を言っているだけのおまかせの時代が終わりつつあることを、この3年間はいろいろな意味で思い知らされたと言えるでしょう。