科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

今年もサイエンスアゴラがやって来る

横山雅俊 (市民科学研究室理事)
http://twitter.com/yokodon001
http://blog.goo.ne.jp/yokodon_001/

 早いものであれから6年。その歩みは小さくとも、少しずつ認知を広げていった科学コミュニケーションの祭典“サイエンスアゴラ”。今年も、11/10(土)〜 11/11(日)の2日間の会期で開催されます(ブース型展示などでは、物品の搬入や設営が11/9(金)にあるので、関係者の方々はその日が始まりですね)。
 今年の開催要項は
http://www.scienceagora.org/scienceagora/agora2012/about/index.html
...に、プログラムは
http://www.scienceagora.org/scienceagora/agora2012/program/index.html
...に、それぞれあります。

 研究者、学生・院生、科学の専門家、市民、草の根活動に関わる方々など、あらゆる人たちが垣根を超えて集う場。それがサイエンスアゴラ。その理念は、6年前の第1回から一貫しています。
 第3期科学技術基本計画の策定されて以降、国策として科学技術コミュニケーションの推進が唄われ、その理念は第4期の基本計画でも引き継がれました。ただ、いつまでも国策にのっかって動く時代から、少しでも踏み出した動きもちらほらあります。また、科学コミュニケーションの理念から起こして考えるに、この理念に則って理解出来そうな以前からの取り組みも実は存在することに気付くこともあります。

 筆者の企画を含めて、そのうちホンの一部をご紹介します。

 日本を取り巻く海。そこには多くの生き物が暮らし、多くの物質とエネルギーの流れがあり、その場を満たす水そのものも流れの中にあります。その海にまつわる市民参加の取り組みとして、沖縄・恩納村でのボランティアダイバーの活動がサイエンスアゴラに今回やって来ます。

チーム美らサンゴ
http://scienceagora.org/scienceagora/agora2012/program/summary/Ab-319.html

 筆者自身、実は5月にこれの体験をしてきました。拙文ですが、その模様を
http://blog.goo.ne.jp/yokodon_001/e/5c37aa8391537c42ac498fb4afbe1cac
...に記しています。
 沖縄で現地の方々と話をしていると、本土の方々とのつながりを求めているという思いが伝わってきます。このチーム美らサンゴは、多くの企業の CSR 活動の一環という側面と、有志による保全生物学の社会実験という側面があります。それらを垣根を超えて共有しようという営みを、実はサイエンスアゴラよりも長く続けています。
 詳しくは
http://www.tyurasango.com/
...を御覧下さい。

 もう一つ。うって変わって、大学の話を少し。
 以前、このメルマガの発行者さんと、大学問題をテーマにしたワークショップを開催しました。博士号などの学位を持つ人材にどういう価値と可能性があり、それを育てる大学がどういう存在であるべきか。それを考える場を設けました。継続的な取り組みにすることを約束して、あれから3年。今回は少しだけ視座を変えて、専門家の育成をテーマに、薬学教育を題材にしたワークショップを筆者は組みました。

研究問題ワークショップ 本音で語る『専門職学位』〜薬学6年化は成功するか?〜
http://scienceagora.org/scienceagora/agora2012/program/summary/Ab-315.html

 現段階での開催要項は
http://stsfwgjp.seesaa.net/article/281314983.html
...にあります。
 いまから6年前に、薬学部(正確には、薬剤師の資格取得が可能な薬学部の教育課程)が学部として6年になりました。今年、その6年制課程の第1期卒業生が世に出ています。それに至る経緯は
http://archives.shiminkagaku.org/archives/2012/06/post-288.html
...に粗くまとめてあります。あまり知られていない問題ですが、実は薬学部の今後、ひいては大学の今後、社会に今後に少なからぬ影響を及ぼしかねない問題を抱えています。無論、大学や大学院で教育・研究にいそしむ学生、院生、教職員はその渦中にあります。また、そこを通り抜けて世に出た薬学出身者、またその一部である薬剤師たちがどのように社会貢献し、他方で社会からどう思われているかに関しても、単純ならざる問題が山積しています。

 さて、このワークショップは、「研究問題」という看板を掲げています。そもそも研究問題とは何か? なぜこれが研究問題なのか? メルマガ発行者参と見解を共にしていると信じていますが、科学研究や高等教育の影の部分、負の側面にある問題群を、我々は研究問題と呼んでいます。研究不正、研究室運営、研究費制度、高学歴者のキャリア問題、科学技術政策など、考えるべき問題は多岐にわたります。その中には社会的影響の大きなものも少なくありません。実は、第1回のサイエンスアゴラから、この研究問題をテーマにしたワークショップを、我々は続けてきました。
 さて、今回の薬学部の教育改革の問題を考えるに、臨床医療側からの大きな働きかけがあり、それが実って年限延長と相成りました。ただ、その経緯を見るに、看過できない何かがあるのです。それを多くの方々に知っていただきたい。実は、生命科学系のポスドク人余り問題の影で、日本の生命科学研究にある種の危機が迫っています。筆者の杞憂であってくれれば良いのですが...。

 無論、楽しい科学イベントも盛り沢山のサイエンスアゴラです。
 ただ、科学と社会の接点には、楽しいだけではなく、大事なことが沢山あります。
 その大事な問題に、多くの人とともに向きあう営み、それが本当の科学コミュニケーションであり、それをやる場がサイエンスアゴラであると、筆者は思っています。

 11 月の第2土日、東京・お台場の会場で、皆さんとお目にかかれることを楽しみにしています。