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科学ジャーナリスト賞授賞式に参加して

5月17日、科学ジャーナリスト賞の授賞式に参加しました。感想を書いてみたいと思います。

まずはじめに、日本科学技術ジャーナリスト会議の武部会長からの審査過程の説明がありました。

大賞の「封印された原爆報告書」(NHK広島放送局制作)に対しては、満場一致で大賞に決まったものの、長崎大学の名誉教授の方から、「封印された」という言葉に対して、封印されていたわけではなく、公開されていたとの強い抗議があったことが説明されました。

たしかに非公開ではなかったけれど、報告書の中身はあまり一般に知られていなかったわけで、それを公開した意味は大きいということで、受賞は揺らがなかったということです。

このあと、私と松澤哲郎さんの受賞理由と、候補に残った作品の説明などがありました。松澤さんの作品に関しては、この賞が科学者自身が本を書いたりすることを評価しているということも受賞の理由であると述べられ、その点で、候補作の「生殖・発生の医学と倫理:体外受精の源流からiPS時代」へと「生物多様性とは何か」は科学者の本として評価されたとのことでした。

この他、本や映像だけに限定しているわけではなく、科学館の展示や新聞記事も評価の対象になること、新聞記事は残念ながらもう一歩だったこと、北海道大学CoSTEPの電子書籍は、はじめて電子書籍が候補になったということなどが述べられました。

次に、それぞれの賞の講評と盾の授与が行われました。

私の講評を行ってくださったのは、総合科学技術会議議員の相澤益男さん。

震災後で大変な時期に受賞作品が送られてきて評価をしなければならなかったことに戸惑ったそうです。その中で、震災前に書かれたり作られたりした作品のなかで、震災後につながる内容があるものを評価したそうです。

私の本は、前半部の博士が余っている現状分析だけならよく知られていることだけれど(それだけなら賞にはならなかった)、21世紀の知的社会をどうつくっていくかという視点で書かれていたことを評価されたそうです。

本の後半部分で触れた「科学2.0」、もっと科学を社会に役立てるという部分に関しては、大変重要だが、本の中では記載がまだ不十分だったので、今後そこを深める続編を期待すると、大変大きな、そして重要な宿題をいただきました。

相澤さんにはその後の懇親会でお話させていただきました。博士の問題を社会問題として取り上げるだけでは不十分で、科学と社会をどうするか、という問題でとらえないといけない、これからは博士が政治なども含めた様々な領域に競って出ていかなければならない、日本は世界の「ブレインサーキュレーション」から取り残されており、社会に博士が出ていくことでこれをうながすべき、といったお言葉を頂きました(この内容はあくまで私が今覚えている範囲のことで、文責は私にあります)。

相澤さんの言葉は、私たちの今後の活動をどうするかを考える上で大変示唆的でした、それはまさに、数日前にこのブログに書いたことにもつながる問題意識であり、日本の大学でしか通用しない「ガラパゴス博士」から、地域や領域を問わずグローバルに活躍できる博士を増やしていなかければならないという思いを強くしました。

そのあと、私が簡単にスピーチをさせていただきました。緊張でしどろもどろになってしまい、ニコニコ生放送で見ていた方には分からなかったかもしれません。申し訳ありません。以下、事前に書いていたメモを掲載します。

本日科学ジャーナリスト賞という大変栄誉ある賞をいただき、まことに身にあまる光栄でございます。本の読者のみなさま、審査委員のみなさま、執筆の機会を与えてくださったディスカヴァー21の干場社長、担当の藤田さんはじめみなさん、そして私の活動をささえてくださったみなさんに厚く御礼申し上げます。

「博士漂流時代」は、誤解され、苦しい立場におかれている博士やポスドクのみなさんのことを思い浮かべながら、少しでも状況が改善するようにという思いを込めて書いた本です。そういう意味で、この本を私に書かせたのは、博士やポスドクのみなさんの声なき声だと思っています。この賞を、博士、ポスドクのみなさんと分かち合いたいと思います。今回の受賞で、今以上に博士号取得者を取り巻く問題に光があたってほしいと思っています。

本の中で、博士号取得者就職の問題を解決するために、社会が博士を活用しようと訴えました。

しかし、3月11日の東日本大震災で、状況は一変しました。

多くの方々が亡くなり、行方不明となる中で、また、街が破壊され、たくさんの方々が避難生活を余儀なくされているなかで、社会自体がゆらいでいます。果たして博士を社会で活用しようと言えるのかと思いました。正直行って、「それどころではない」という状況ではないかと思います。

本書の最後の章でも触れましたが、これからの博士の能力を、もっと社会のために、人々のためにつかっていくべきだという思いを強くしています。

原発事故では、多くの人達がどのような情報を参考に、何をすべきか迷うような事態が起きています。震災からの復興をふくめ、博士号取得者が、特定の立場を超えて、いわば「市民科学者」として、人々のために行動すべきではないかと思うのです。

そんなとき、逆転の発想をすれば、所属が定まらない博士というのは、しがらみにとらわれない、社会のために働く博士の人材供給源になりうると思っています。

もちろん、それは簡単なことではありません。生活の糧をどうやって得るのかという問題は依然よこたわっています。

今回の受賞をはげみに、これからは社会の中で生きる博士が増えるような環境の整備をやっていきたいと思っています。

最後に、審査委員の浅島誠先生は、私の大学院時代の恩師でして、こうしたこの会場で再会できるのは運命的なものを感じます。私は研究者にならず、別の道を進みましたが、そうした私の生き方が先生に認めていただけたことは、本で書いたことを象徴しているように思います。本当にありがとうございました。

どうぞ、今後とも一層のご指導ご鞭撻をいただきますようお願い申し上げます。簡単ではございますが、感謝の言葉に代える次第でございます。本日は、まことにありがとうございました。

続いて、松澤さんの作品の講評を、浅島誠さんが行いました。松澤さんは人間とは何か、ということを知りたくて文学部に入り、その後チンパンジーの研究をしたこと、30年以上の研究で分かったことは、人間の想像力、本のタイトルの「想像する力」のすばらしさ。松澤さんは本を「遺書」として書いたそうですが、そこには松澤さんの強い意志がある、日本のチンパンジーを一箇所に集めり構想など、松澤さんならではのことだ、といったことが述べられました。

松澤さんは残念ながら来られなかったので、代わりに岩波書店の編集者の濱門麻美子さんが、松澤さんの文章を代読されました。

最後は対象の「封印された原爆報告書」の講評。米沢富美子さんが講評を述べられました。

この番組に込められたメッセージは二つある、ひとつは自国民のことをさしおき、進んでアメリカに協力してしまう日本のアメリカに対する精神、もうひとつは日本人の放射線放射能に対する捉え方。それは決して過去のことではなく、現在に繋がっている。そういう点を明らかにした番組を高く評価すると言われました。

米沢さんは涙なしではこの番組を見ることができなかったそうです。

米沢さんは沖縄の米軍基地の問題や、原発に異議を唱える人達がキャリアを失うような日本の状況を厳しく批判しました。福島原発事故以来、怒りのあまり血圧が上がってしまい、血圧降下剤をはじめて飲まれたとのこと…

プロデューサーの春原(すのはら)雄策さんは受賞スピーチのなかで、「封印された」という言葉に込めた意味を述べられてました。

たしかに資料はアメリカの公文書館や日本にあり、まったく非公開ではなかった(そうでなかったら番組は作れなかった)けれど、それを人々の目にふれるようなことをしてきた人はいなかった、それはマスコミ自身にも責任があると言われました。

そして、広島の原爆を、直接被爆者に聴ける機会は今しかない、番組で証言された方も、放送終了後亡くなられたと述べられたあと、感極まり涙を流されていました。

春原さんの涙を見て、科学ジャーナリスト賞に込められた重みを改めて感じました。

最後に、ノーベル賞受賞者白川英樹さんが総評を述べられました。

賞を与えたのは、これからも活動を続けて発展させてほしいという後押しの意味もあるとのことです。白川さんの言葉を聞いて、あらためて賞の重みと責任の大きさを感じました。

また、白川さんは北海道大学のCoSTEPと、かつてCoSTEPの教員だった難波美帆さんとCoSTEPの受講生の田中徹さんが候補にあがったことを、振興調整費ではじまった国の科学コミュニケーション事業の成果が出てきていると評価されていました。


以上、拙い文章になりましたが、授賞式の報告をさせていただきました。発言の内容や発言者に実際と異なる部分がありましたら、それはあくまで私の責任です。その点はご理解ください。


繰り返しになりますが、授賞式に出席して、あらためて賞の重みを感じています。これからも活動を続けなさい、みていますよ、ということであり、まさにこれからが問われています。

実際過去の受賞者には、福岡伸一さんのようにベストセラーを連発する人気作家になられた方もいます。また、先日話題になったNHKETV特集ネットワークで作る原発汚染地図〜福島原発事故から2か月〜」は、2009年の受賞者七沢潔さんがプロデューサーとして作られた番組です。

受賞者として覚悟と責任感をもって、今後も行動を続けていきたいと思います。

どうぞ今後とも宜しくお願いいたします。

最後に、twitterでたくさんのお祝いメッセージをいただきました。個別にお返事ができておらず、大変申し訳ありません。この場を借りて、あらためて御礼申し上げます。

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