科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

災害と科学コミュニケーション、twitterで考えた

2010年2月27日午後(日本時間)にチリで巨大地震が発生した。

日本にも津波が押し寄せ、各地で被害が出た。被災者のみなさまに心よりお見舞い申し上げる。

この地震の一報を聞いたのは27日の夕方だった。日本に津波が到達することが予想されたので、私はミニブログtwitterに、地震に関する情報を書き込むことにした。科学コミュニケーションが災害にどうかかわるべきかを考える機会にしたいと思ったからだ。以下、その過程で感じたことを書いてみたい。

一報を聞いたとき、twitterNHKのニュースでは、南米で巨大地震があったことのみ情報として流れていたので、まずは国内外のニュースサイトを検索し、地震の報道を探った。

ハッシュタグ(情報をまとめるためのタグ)#tsunamiには、津波に関する様々な情報が流れていたので、入手した情報はそこに書き込んだ。だが、このタグが、世界的に使用されていたタグであったので、震源に近い地域の方々の情報交換の妨げになるという話を聞いたので、情報は#tunamiに書き込むように変更した。

ハッシュタグの混乱は続き、#tunamiもスペイン語の書き込みがあるので、日本語情報は#tsunamijpもしくは#tunamijpに書き込んでほしいとの意見が多数寄せられたが、周知徹底されたわけではなかった。#tsunamiも含め、外国人の人が利用するタグに日本語が多数書き込まれるという状況は最後まで続いた。twitter上でどこに情報を集約するべきか、特にルールがあるわけではない。この点は、非常に難しい問題だ。

最初は報道機関の情報を書き込んでいたが、CNNが報道した「40メートルの津波が発生した」との情報を紹介したところ、予想以上に広まってしまい、不必要な不安を引き起こしてしまった。批判を受けたことより、以降はアメリカ地質調査所、太平洋津波情報センター、気象庁のウェブページの情報を紹介することにした。

気がついたことは、容易に入手できるこれらの機関発表の情報にアクセスする人は少なく、多くの人が報道機関の二次情報に頼っているということだ。

私は時々これら公的機関のページの更新情報を見つけ、それを紹介しただけなのだが、多くの人にRetweet(他人のtwitterの書き込みを引用して紹介すること)された。しかし、NHKのニュースや報道機関が伝える情報をもとにした書き込みや、それをRetweetする人が多かった。

静岡県の海岸で海面が2メートル下がった、といったような、明らかに誤った情報が流布したりもした。口コミに近いtwitterは、報道機関が捕捉できない情報を伝えることができるという利点があると同時に、誤報の広がりを増幅する可能性があることを痛感した。

折しも、地震直前に避難に関する特別世論調査(平成22年1月)
http://www8.cao.go.jp/survey/tokubetu/h21/h21-hinan.pdf

内閣府から公表されていた。これによると、災害時の避難情報の入手先はテレビが主であり、インターネットはまだ重視されていない。確かにメディアでは流されない情報を知るには、twitterは強いかもしれないが、ハッシュタグの混乱や、無関係な書き込みの多さ、誤報などを考えると、緊急情報はテレビ、ラジオなどのマスメディアが活躍する分野なのだろう。災害情報は被災者だけではなく、支援者も知る必要があり、誰が必要な人かなど分からないから、マスメディアの役割が重要だ。

とはいうものの、NHK津波情報を常に画面に表示させていることの批判、番組が変更されたことの批判がtwitter上でも聞かれており、自分に関心がある情報しか知りたくない、という人々の欲求とどう整合性をつけるべきか、難しい問題だ。

twitter上には、なんで遠いチリの津波が日本に来るのか分からない、という書き込みもあった。今回の津波では、東大地震研の都司嘉宣准教授がNHKに出演し、分かりやすい解説をしており、好評を博していた。災害という特殊状況下に、科学的な知識を分かりやすく提供することの必要性とニーズを感じた。

災害に科学コミュニケーションはどうかかわっていくべきか。誤った情報の発信源になってはいけないという厳しい状況下だが、人々のニーズが最も高まっている時でもある。テレビに出演するという従来の方法と、twitterやウェブを使った草の根の情報提供のいずれもが必要だと思う。

東大地震研は、今回の地震に関する情報を早速掲載している。

2010年2月27日 チリ中部の地震
http://outreach.eri.u-tokyo.ac.jp/2010/02/201002_chile/

まだ決定的な方法は見いだせていないが、人の命にかかわる分野での科学コミュニケーションの在り方は、今後の大きな課題になるだろう。