科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

安易に若手研究者を解雇しないために

12月6日に開催した討論会は毎日新聞に二回、朝日新聞に二回取り上げられた。

毎日
事業仕分けの波紋:どうする科学技術予算/下 若手や女性に打撃、埋没する人材育成
http://mainichi.jp/select/science/news/20091208ddm016010137000c.html

発信箱:頭としっぽ=元村有希子(科学環境部)
http://mainichi.jp/select/opinion/hasshinbako/news/20091212k0000m070108000c.html

朝日
事業仕分けに科学界沸騰 続く意見表明、反省の動きも」
(ウェブ版はなし、12月9日)

仕分け受け、科学界に新たな動き
https://aspara.asahi.com/blog/science/entry/GFJ7ogjHeb

 私たちが目指す、分野横断的な草の根の科学者、市民の組織の必要性が理解されつつあるのは
大変心強い。事業仕分けを超えて、科学コミュニティが変わるために、確実に前進していきたい。

 その一方で、緊急を要することがある。

 事業仕分けで縮減、廃止を言い渡された事業が、若手研究者など不安定な雇用におかれた研究者を解雇するかもしれないということだ。

 繰り返し述べているように、大型プロジェクト単位で研究者を雇用しているのが昨今の現状であり、プロジェクトが終われば首が切られるという事態は、今までも発生してきた。

 著名な例は、タンパク3000プロジェクトで、プロジェクト終了時に行き先が決まらなった若手研究者が出た。

(なお、事後評価
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/shiryo/08021318/001.pdf
にはこのことは明記されていない。研究計画・評価分科会(第26回)で菱山ライフサイエンス課長(当時)が

「若干の方につきましては、なかなか次の行き先が見つからなかった場合もあるということも聞いております」

と触れるにとどまっている
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/gijiroku/08031207.htm

 こうした不安定な状況が常態化している中、予算が減らされるとなれば、「調整弁」として短期雇用の研究者が「切られる」可能性は高まる。

 実際、科学技術政策研究所の調査では、ポストドクターのうち競争的資金で雇用されているものは46%にのぼる。経済支援をうけている博士課程の学生のうち、競争的資金が財源の者は26%である。

(大学・公的研究機関等におけるポストドクター等の雇用状況調査
― 2006年度実績 ―
http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/mat156j/idx156j.html

 ポスドクや任期付き助教などが安易に解雇される(雇い止めされる)のを避けなければならない。

 まず、予算の縮減は、非効率な研究費の使い方が問題にされたのであり、縮減=若手切りではないはずだ。安易に若手切りを行うことを監視しなければならない。

 もし仮に、若手研究者を解雇せざるを得なくなったとしても、次の職場を見つけるための支援は適正に行うべきだ。

 ポストドクターは失業保険が受給できるはずだが、一説によれば、無給も含め、非常にまちまちな雇用条件であるという。社会保険加入者(事業者負担)の割合がわずか61%という結果が、それを示唆する。(前述資料)。解雇は研究の継続のみならず、生活にも困窮する可能性をはらんでいる。これが杞憂であってほしいが、情報や知識も含め適正な支援がなされなければならない。

 以上、非常に短期的な問題について触れたが、中長期的には、若手を不安定な雇用においている状況を変えなければならない。

 日本学術会議の公開シンポジウム「研究・教育者等のキャリアパスの育成と課題」について
http://www.scj.go.jp/ja/info/iinkai/bunya/kisose/sinpo1018.html

 でも、若手の不安定雇用の問題が大きな課題として議論されている。

 ブロガーsivad氏は

科学技術立国と研究費のこれから。
http://d.hatena.ne.jp/sivad/20091205/p1

 の中で、「現在の短期プロジェクト制を続けるのであれば、米国型の雇用創出の仕組みを早急に作る必要がある。特に大規模なものは出口を明確にし、うまくいかない場合のプランBを用意し、終了後の人材の動向についても配慮するべき」と述べる。

 前述のタンパク3000プロジェクトの報告書の中でも、プロジェクト終了後の研究者の行先について述べられていたが、これを「失業対策」ととらえるのではなく、アメリカのように「経済成長を促進し、何百万ものハイテクで高給の仕事を創造し、グローバル・エコノミーを」リードすることに結びつける知恵が求められる(http://nyliberty.exblog.jp/12392649/より)。

 それは簡単なことではないが(もし簡単だったら、もうすでに実行されている)、研究者コミュニティが、予算縮減、廃止反対だけでなく、未来の研究の在り方について積極的に提案し、関与していくことが不可欠だ。

 ここでは、大学院生の経済支援や女性研究者支援についてはあまり触れなかったが、どのようなバックグラウンドを持った者も、その才能を十分に発揮できるためには、当然ながら重要だ。「自分の好きなことをやっているくせに贅沢だ」という強い批判を受けてもいるが、知が個人のキャリアや知的好奇心を満たすのみならず、人類の共通財産となり、かつ、社会的な基盤となるという点を、社会も研究者も共通認識として持てるような環境を作ることが急務だと考える。