早稲田大学の松本和子教授事件ですが、7月12日、調査結果が発表された。
▼【対応状況】 公的研究費における不正再発防止に向けた第一次行動計画
現在までの事件の経緯については、毎日の記事がまとまっている。
クローズアップ2006:早大教授・研究費不正使用 研究費集中が誘発要因
クローズアップ2006:早大教授・研究費不正使用 癒着で共栄、企業に「還流」
皆さんは早稲田大学の対応についてどう思われるだろうか。
繰り返し述べているように、私は、この問題は早稲田大学や松本教授に責任を押し付ければよい、という問題ではなく、科学コミュニティの構造全体に関わる大きな問題だと思っている。
研究費の特定研究者への集中、使いにくい研究費…こうしたことは昔から知られてた。何とかしなければならないという声も出ていた。
たとえば、私が作成に関わった学術会議 生物科学学会連合からの研究体制に関する提言
では、以下のようなことを要望していた。
>科学研究費について
>科学研究費の重視と増額。科学研究費は日本の科学研究の根幹を担う重要な研究費で
>あり、競争的研究資金の中でも特に重視すべきである。その基本である基盤研究費
>は、区分を問わず採択数および総額の大幅増加を計る必要がある。とくに、将来的に
>飛躍の可能性を秘めた研究の多くを支えている、年額500ム1000万円の基盤研究(B)、
>および比較的小額ではあるが独立した研究者には必須の研究費である基盤研究(C)
>の二区分の採択数については、優先的に増やす。
>
>年度越え使用。研究費が年度を越えて使用できない現行の制度は、日本の研究の発展
>を阻害する要因であるとして、各方面から改善すべきとの意見が出されている。先
>に、研究費の年度越え使用を一部認める方針であるとの見解が科学技術政策担当大臣
>から出されたが、無条件に年度越え使用を許可すべきである。
>
>科学研究費審査員の選挙による選出。研究費の審査に関して、プログラムオフィサー
>制度の充実化が計られようとしており、その意義は評価する。しかし、科学研究費審
>査員の選定がトップダウンで行われるのではないかとの懸念がある。科学研究費審査
>員の選定は、本年度まで、日本学術振興会が日本学術会議の研究連絡委員会に審査員
>候補者の推薦を依頼し、これを基に進められてきた。多くの学会では、依頼に対応し
>て、実際に研究を行っている一線の研究者の中から候補者を研究者同士の選挙で選出
>し、推薦してきた。今後も学会を通して研究者の意向を汲み上げるボトムアップの体
>制を維持すべきである。
早稲田大学の事件からいろいろなことが浮かび上がってくるが、研究者や市民が科学政策や予算配分にあれこれと意見を言ったり、ウォッチしたりすることが、質量ともに不足していることも、事件を止められなかった原因のひとつに挙げられると思う。
確かに、まだ全容が明らかになる前にいらぬ事を言って目立って叩かれる、という心配から、言いたくても言えないという人は多いだろう。しかし、黙して語らないことは、罪を肯定することにつながる。
こんなときこそ、科学コミュニケーターと呼ばれる人たちの出番なのではないかと強く思う。
研究現場の意見を集約して、それを政策サイドに伝えたり、市民に伝える、逆に市民からの疑問や意見を研究者側に伝える…まさに今回の事件に関することでも当てはまる。
北大や早大、東大などの科学コミュニケーターコースから、この問題にどっぷり取り組む人が出てほしいし、そういう人がいるのなら、ぜひ私たちも協力したいなあと思う。
非常にありきたりなアイディアしか浮かばないが、シンポジウムなどを開催したりすることもひとつの手段だと思う。また、機会を得て、ある雑誌にこの問題に関する記事を書かせていただくことになっている。こうした手段を用いて、問題を明らかにし、今後につなげていきたい。
ともかくいまだこの問題を自分を棚に上げて他人事のように反応する人が多いように思う。そんなことでは、地に落ちた研究者への信用はもう回復しないだろうし、失望したこどもたちやワカモノの科学離れはますます進むのではないかと思う。
声が上げにくいというのなら、私たちのような大学や政府と直接利害関係を持たないNPOに意見を言っていただいてもよい。ブロガーの方々も、もっと当事者としての声を上げてほしい。
この事件はまだまだ終わらないし、終わらせてはいけない。