科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

ポスドクが政治を動かすには?

 柳田充弘氏のブログのエントリー

博士ユニオン[組合]を結成したら

 を読んで、非常に感慨深いものがあった。というのも、柳田氏の到達した地点、つまり団体を作って政治を動かそう、という意見は、5年前に私たちサイコムジャパンを作ったメンバーが到達した意見でもあったからだ。

 そう、5年前、私たちは日本育英会奨学金が廃止になることを知って、これをとめなければならぬ、という思いを抱き、Natureや朝日新聞などに投書をした。しかし、それだけでは不十分であるとの思いを抱き、団体設立を考えた。それがサイコムジャパン立ち上げのきっかけである。

 最初は私たちは柳田氏の考えるように、ポスドクや若手研究者の圧力団体になろうとした。しかし、それだけでは、とうてい社会の支援を得られるはずがない、という結論に至り、研究者の社会的貢献と研究者の待遇改善の両輪で活動することが重要であると考えるようになった。

 私たちの出した答えは、団体名にもある「サイエンス・コミュニケーション」、つまり、科学と社会の双方向コミュニケーションを推進することである。団体のミッション(使命)には、「科学研究の知を駆動力とする社会づくり」を掲げることにした。

 こうしてNPO法人を立ち上げ、現在に至る。

 最近ではカフェの活動など、科学コミュニケーションの活動に軸足が寄っているが、研究者問題を忘れたわけではない。

 昨年、科学技術社会論学会から、柿内賢信記念賞研究助成金を頂いたが、テーマは日本の科学技術政策形成における非営利組織の役割である。以下要旨を引用する。

近年、科学技術政策形成に多方面の意見を取り入れるべきであるという声が聴かれる。なかでも非営利組織(NPO)は「地域社会と密接にした活動や、個々の国民の要望に対応してきめの細かい対応も可能であるなど、新たな科学技術活動の担い手」として、「我が国の科学技術の方向性や社会的活動を評価し、又は、国民参加型の議論を活性化する等の役割を果た」すことが期待されている(平成16年科学技術白書)。しかし、環境やエネルギーなどの一部の政策課題以外に、科学技術政策を扱うNPOの数は極めて少なく、科学技術政策形成に関与しうるNPOはまれである。そこで応募者は本研究において、NPOサイエンス・コミュニケーション(サイコムジャパン)をモデルに、日本の科学技術政策の形成にNPOがどう関与すべきかを探る。まず日本及び諸外国の科学技術政策に関する情報を収集し、整理した上でインターネット等を通じて市民及び科学研究者に提供する。次に政府の政策担当者等を講師に迎え、科学技術政策に関する講演会等を開催する。そして、上記にて入手した情報を分析し、書籍の形で世の中に提示する。このような活動を継続的に行うことにより、科学技術政策に関心のある市民、科学研究者の数を増やし、市民や科学研究者とともに科学技術政策に関する議論を行っていきたい。長期的にはサイコムジャパンを科学技術に関する政策提言が可能なNPOにすることを目標にする。

 やりたいこと、やらないといけないことで書いたとおり、サイコムジャパンの究極目標は、アメリカのAAASだ。

 しかし、そこに至る前に、やらなければならないことがある。

 今考えているのが、若手研究者団体のコンソーシアムつくりだ。さまざまな団体の意見をまとめ、数の力で交渉をするような仕組みを作りたい。また、政策に関する議論を重ね、何が問題かを明らかにしていきたい。

 このコンソーシアムで、たとえば政府の政策担当者や議員の方を呼んで講演していただいたり、アンケート調査をすることも考えている。とくに、研究者は市民や社会が自分たちに何を求めているのかを知らない場合が多い。自らの置かれた立場を、社会の中で位置付けることも必要だ。
 柳田氏のように、問題に気づいた研究者が増えてきたのはうれしい。

 もちろん、「中等教育ポスドクを」という意見には異論が多いと思うが、そういう意見の何が問題かを考える場としてコンソーシアムを活用することもできると思う。

 まだ構想段階だが、一つ一つ、「知を駆動力とする社会」をつくるために活動していきたい。