科学・政策と社会ニュースクリップ

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25兆円は茶番劇か

 ここのところ、サイコムジャパンの仲間と、第三期科学技術基本計画の25兆円の意味を議論し続けている。

 25兆円と金額ばかりに目がいってしまうが、そもそも科学技術基本計画における投資目標とは何なのか、よくよく考えると、不明確になってくる。

 1期、2期に「科学技術予算」として計上された内訳のなかには、本当に科学技術予算なのか、不明確なものも多いらしい。

 また、科学技術予算に建設国債が使われていることは、あまり知られていないかも知れない。

 加藤紘一氏の講演にそのあたりのいきさつが詳しいので、少し引用させていただく。

【加藤】 しかもその額が遅々として伸びないというのです。杉村さんはその分野の世界的権威であり、日本を代表する科学者の一人でもあります。その杉村さんから「科学研究費補助金はわれわれにとっては命の網で、それを1000億円にするのが研究者の夢だ」とお聞きして、ハッとしました。

一方では当時、景気対策のための公共事業費として、8兆5000億円を5000億円増やして9兆円にするか、それとも3兆円追加で単発にしようかといった話をしていたわけです。どうして科学研究費補助金はなかなか増えず、公共事業費のほうは大判振る舞いをするか。それには一応理屈がありまして、橋や道路といった公共事業は50年、100年先まで財産として残るものだから、良い借金であり、建設国債という概念でとらえる。そういうことになっているわけです。

【反町】 それにひきかえ、研究費のほうはあくまでコストであると。

【加藤】 いわば学者の給料などになって生活費として消えていってしまう経費だから、赤字国債の対象とされていたわけです。

法律でいえば、財政法第4条に公債発行や借入金は「公共事業費、出資金及び貸付金の財源」に限って認められるという歯止めがあります。なるべく借金をしないための仕組みがあるため、他の政治家や大蔵省を相手にして、基礎研究を建設国債の対象とすることを説得するのはなかなか骨の折れる作業でした。

そこで私は当時の文部省、科学技術庁通産省の若手官僚などに「10文字以内でその矛盾を解くキャッチフレーズを探してほしい」と頼んだのです。「1文字につき100億円の予算がつくかもしれない」と。ところが、待っていてもなかなか良い回答が来ない。

そんなおり、東北大学学長をされていた西沢潤一さんが「『知的資産』という概念で取り組まれたらどうですか?」とおっしゃられた。
これでいける、すぐにそう感じました。そして平成7年度の予算編成のとき、「知的資産の形成」というキャッチフレーズを用いて大蔵省主計局の説得にかかりました。

【加藤】 知的資産の価値は何百年も残るのだから道路や橋と同じ財産であるという理屈を唱えて、1年間のやりとりの後、建設国債の対象経費として基礎科学研究費を入れる突破口をひらくことに成功しました。今、建設国債の枠で、その関連の予算が年間700〜800億円ついていると思います。「研究テーマ型予算」として建設国債で集めた金を基礎研究費としてさまざまな研究機関に出資したり、その他にも、「1万人のポストドクター支援計画」として、若手研究者を経済的に補助して研究活動を助ける政策などを行ってきました。

 議論になっているのは、25兆円という金額ばかりあれこれ取りざたされ、その内訳や使い方、効率に関する議論が手薄いのではないかということだ。

 もちろん議論がないわけではないが(たとえば最近の日経新聞社説は、「科学技術」を公共事業にするなと、予算の使い方に警鐘を鳴らしている。

 また、Natureは最新号のEditorial、A poor assessmentのなかで、日本の研究評価システムのまずさを指摘している。
Nature 438, 1051-1052 (22 December 2005) | doi:10.1038/4381051b
▼Given Japan's strong scientific record, the country has a badly flawed research evaluation system.

 本当はこういう議論は科学コミュニティ、ひいては研究者自身から出てこなければならないが、研究者の意識はまだそこまで至っていない。

 ただ、研究者の意識が低いと叩くのは簡単だが、それだけでは新聞の社説と同じで、効果は少ない。

 意識を高めよ、と声高に言うだけでなく、どうやれば意識が高まるか、仕組みを考えなければならない。

 サイコムジャパンは、社会と研究者の中間にいるような集団だ。一方的な科学者批判集団ではなく、かつ科学者の代弁者でもない。私たちも「お前らなんとかしろ」だけでない方法を考えて、科学コミュニティ内の意識改革を促したい。