科学・政策と社会ニュースクリップ

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NPO法人サイエンス・コミュニケーション有志、【「科学技術に関する基本政策について」に対する答申へ意見を出す

 パブリックコメントがなんとか間に合った。

 サイコムジャパンの総意というわけではないので、「有志」とさせていただいた。基本的に意見は、普段は見過ごされてしまうような点を中心に作成した。

 前回の中間報告案に出した意見
http://scicom.talktank.net/modules/news/article.php?storyid=29

が相当取り入れられているので、今回はマイナーチェンジ程度に見えるかも知れないが、前回の意見で取り入れられなかった点については再び意見を出した。



 NPO法人サイエンス・コミュニケーション有志は、第3期科学技術基本計画案「科学技術に関する基本政策について」に対する答申
http://www8.cao.go.jp/cstp/pubcomme/kihon/kihonseisaku.html
に、以下のような意見を送付した。

 この意見が少しでも取り入れられ、日本の科学技術研究環境が向上することを望んでいる。

1) 特定の研究者への研究費の集中を廃し、比較的小額でも多数の研究者に配分するような研究費を
14ページ 若手研究者の自立支援、22ページ 競争的資金及び間接経費の拡充、23ページ 公正で透明性の高い審査体制の確立、30ページ 研究費の有効活用

 今回の答申では、若手研究者に対するスタートアップ資金の提供、競争的資金及び関節経費の拡充、審査体制の強化、透明化など重要な提案がなされており、それらを評価したい。
 特定の研究者への研究費の集中はデータベース化により是正されるとのことだが、その分、科学技術研究費補助金については、比較的小額でも、より多くの研究者にゆきわたるような資金(基盤CやBに相当)を拡充してほしい。
 たしかに、特定分野への研究費集中は、特定の分野を興隆させるという効果はもたらすが、過度な集中により、将来、社会動向が変化した時、集中投資した研究課題が時代遅れとなるというリスクも伴う。そこで、「集中」と「幅広い分配」による適度な分散投資によって、我が国の研究をバランスよくサポートしてほしい。

2) 科学技術に興味を持つ子供たちへの進学の援助等
20ページ 知的好奇心に溢れた子どもの育成、21ページ 才能ある子どもの個性・能力の伸長、第4章 社会・国民に支持される科学技術

 理科教育や科学コミュニケーションに力をいれることには賛成するが、科学技術に興味を持った子供たちが、その興味をさらに発展させるような施策を望む。
 具体的には、科学コンテスト等とリンクさせ、優秀な生徒が最先端の研究現場に触れる機会を、自己負担金なしで提供したり、理科教育に特化したバウチャーの発行、大学の理科系諸学部の学生向けの奨学金の創設など、家庭の経済的事情に関わらず優秀な人材が科学技術の研究開発分野に進出しやすいようにしてほしい。
 また、理科系文科系に関わらず、科学的な思考を重視する教育の推進を提案する。

3) ポストドクター、博士課程修了者に対する就職援助の方法について
19ページ 博士号取得者の産業界等での活躍促進
 博士号修了者が、産業界を含めた多彩なキャリアを歩めるようにすべきであると明記している点は高く評価したい。
 しかしながら、ポストドクターを人材派遣会社に登録するなど、名目上はポストドクターの雇用を創出したかにみえる施策によって、この問題を解決したとすることは避けてほしい。
 具体案としては、ポスドクの就職市場を活性化するために、博士課程修了者雇用に積極的な企業は税制を優遇するといった、踏み込んだ支援策を実施してほしい。
 ポストドクター問題は、バウチャー発行によるリカレント教育等、あるいはキャリアカウンセリング等、ポストドクター自身の手で、社会のさまざまな場に自らの道を切り開けるような施策も合わせて実施してほしい。
 また、ポスドク問題の影に潜む、ポスマス(ポストマスター;修士課程修了者)問題についても十分配慮してほしい。実験科学系の研究を遂行する上で、テクニシャン、研究補助者といった研究サポートスタッフはいまや必要不可欠の存在となっており、その主たる供給源は大学院修士課程卒業者である。しかし、その待遇は、非常勤の時間雇用が主体であり、収入も年間200万円以下である場合がほとんどである。
 修士課程という高学歴の行末が、いわゆる「下流」のフリーターであるという現状は、我が国の科学振興には著しいマイナスとなっている。ポスマス問題はポスドク問題の陰に隠れて、あまり触れられることはないが、次期基本計画では、この点にも踏み込んだ計画を打ち出していただきたい。

4) 教育、科学技術コミュニケーション活動にインセンティブ
17ページ 大学における人材育成、20ページ 知的好奇心に溢れた子どもの育
成、第4章 社会・国民に支持される科学技術
 第3期基本計画では、研究者や大学教員に、研究以外に教育や科学技術コミュニケーション活動など、様々な役割を期待している。それ自体は評価したいが、現在こうした活動に対して補助や評価などがなされていないため、研究者がこうした活動を積極的に取り組むというインセンティブが働かないのではないかと懸念される。
 米国では、優れた人材を輩出した研究者に、大統領から「グッドメンター賞」が授与されるが、これに類似した賞を出すなどして、科学コミュニティーに教育や科学技術コミュニケーションへのインセンティブを持たせるべきである。

5) 科学技術政策制定に、NPO、市民の意見を取り入れる仕組みを
40ページ 科学技術に関する説明責任と情報発信の強化、第5章 総合科学技術会議の役割
 今回の答申では、国民の科学技術への主体的参加や、科学技術と社会・国民との間の双方向コミュニケーションや国民意識の醸成への取り組みを明記してあるが、科学技術政策決定においても、タウンミーティングのような一対多の形態ではない、市民や非営利組織、NPO等の意見を取り入れる仕組みを作るべきである。具体的には環境政策等ですでに実行されているように、市民と政策担当者の対話や政策コンペティションなど、継続した取り組みが期待を期待する。

6) 市民が自ら科学研究を行える仕組みを
19ページ 科学技術コミュニケーターの養成、第4章 社会・国民に支持される科学技術
 現在想定されている科学技術コミュニケーションは、研究に取り組む者とそうでない者を明確に分けており、双方向といいつつも役割分担は明確である。しかし、分野によっては、大掛かりな設備等を使わなくても、市民が関与しうるテーマも数多く存在する。もし市民が自らや地域の関心に基づいて研究を主体的に行えるような仕組みがあれば、科学技術の考え方をより深く理解でき、科学技術に対する市民の関心をより高めることにつながるのではないか。
 そこで、理科クラブやNPOといった主体的に研究活動を行うグループあるいは個人に場所や情報を提供する施設として科学館や大学を活用したり、個人や市民向けの小額の研究費を申請しやすくするなど、市民が科学研究を行うための環境整備をしてほしい。

6)人事の透明性と人材の流動性を高める制度的な取り組みを
14ページ 人材の育成、確保、活躍の促進
 第3章では人材の育成、確保、活躍の促進として、性別、年齢、国籍等を問わない競争的な選考を行うこと、若手一回異動の原則、自校出身者の抑制等が挙げられている。これらの取り組みを支持するが、これらの取り組みが言葉だけに終わらいような取り組みをしてほしい。
 たとえば、年齢に関して、いまだ年齢制限を明記した募集要項を散見するが、年齢ではなくたとえば研究歴を基準にすることを促進してほしい。また、退職金や保険等職を変えると不利益になる制度の改善への取り組みを推進してほしい。