科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

安倍政権の科学技術政策を振り返る

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★発行部数 2,563部(9月1日現在)
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     ◆◇◆  Science Communication News ◆◇◆
         No.885 2020年9月1日号 巻頭言
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【巻頭言】
★安倍政権の科学技術政策
2020年8月25日~2020年9月1日
カセイケン代表 榎木英介

 8年続いた安倍政権が唐突に幕を下ろそうとしています。

安倍総理は記者会見を行いました
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0828kaiken.html

 潰瘍性大腸炎の悪化ということは、ここでは額面通り受け取ります。まずはお体をお大事にされて欲しいと思います。

 医師としては、潰瘍性大腸炎への偏見が増長されないことを願います。

潰瘍性大腸炎「19歳で人工肛門、現在医師」の僕が今、伝えたいこと
https://news.yahoo.co.jp/articles/3c14dbca157d5c824c5a23f3ae9eaeea59b1d622

「良くなったり悪くなったり」を繰り返す難病 安倍首相の持病「潰瘍性大腸炎」とは
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamototakehito/20200828-00195474/

 それはそれとして、「頑張ったんだからあれこれいうのやめようよ」という雰囲気になるのはよくないと思っています。それは、病気の人に対しても失礼なことで、仕事は仕事として評価するのが礼儀だと思っています。

 科学政策としては、安倍政権だから、という特徴はないのではないかと思います。

 確かに、安倍政権時代に科学技術基本法は科学技術・イノベーション基本法に変わるなど、イノベーション、すなわち科学技術の産業応用、雇用創出という面に焦点が上がりそれが基礎研究者の間からは懸念が出ていました。

科学技術・イノベーション基本法・科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律
https://www8.cao.go.jp/cstp/cst/kihonhou/mokuji.html

科学技術・イノベーション基本計画の検討の方向性(案)
令和2年8月28日 総合科学技術・イノベーション会議 基本計画専門調査会
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kihon6/chukan/index.html

 総合科学技術会議の上に経済財政諮問会議など閣議決定が根拠の会議をおいて、科学技術政策が経済政策の下部政策になった点は、特筆すべき点でしょう。

 とはいえ、官邸主導は安倍政権の特徴ですが、科学技術政策に関しては自民党の政策であり、安倍首相の独自性がどこまであったのかはわかりません。自民党が政権に返り咲いてからは安倍首相一人しか首相がいないわけで比較のしようがありません。

 安倍首相の総合科学技術会議の開催頻度は高く、自ら会議に出席して発言していた点は評価できると思います。

 最近は若手研究者政策に積極的でしたが、それは安倍首相のイニシアチブではないと思います。

研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ
https://www8.cao.go.jp/cstp/package/wakate/index.html

 というわけで、この8年間はなかなか評価がしにくいのですが、首相候補の方々がどのような科学技術政策を打ち出すかに関しては、しっかりと見てみたいと思っています。

安倍総理アメリカ合衆国のジョン・レイモンド宇宙軍作戦部長による表敬を受けました
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/202008/27hyokei.html

レイモンド米宇宙軍作戦部長による安倍総理大臣表敬
https://www.mofa.go.jp/mofaj/na/st/page4_005185.html

「宇宙に関する包括的日米対話」第7回会合の開催(結果)(報道発表)(令和2年8月26日)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_008704.html

「宇宙に関する包括的日米対話」第7回会合の開催
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_008696.html

防衛相 米 宇宙軍の作戦部長と会談「宇宙分野も緊密に連携を」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200827/k10012587091000.html

首相、半年ぶり来日要人と会談 日米宇宙協力で一致
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63113780X20C20A8PP8000/

 宇宙の軍事化や軍事研究への前向きな姿勢も、安倍政権下で進みました。

★「ともに創り、ともに未来へ: 新しい発想で先導する科学技術行政と共創の形」 令和2年度 科学技術改革タスクフォース戦略室 報告 ―「科学技術ワクワク挑戦チーム」からの提案―
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2020/1417045_00004.html

 文科省の若手の提案。カセイケンの榎木も意見を言う機会を得ました。特に閉鎖的な研究室の問題の指摘は、私の意見が取り入れられたのかなあと思っています。

 こうした提案がどのように政策に取り入れられていくのか…。協力は惜しまないつもりです。

★「諸外国の教育統計」令和2(2020)年版
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/data/syogaikoku/1415074_00006.htm

★学校基本調査-令和2年度(速報)結果の概要-
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/kekka/k_detail/1419591_00003.htm

女性教員の割合、中高大学などで過去最高に 文科省調査
https://www.asahi.com/articles/ASN8T4S74N8TUTIL00F.html

 大学の教員数は18万9,498人。博士課程の大学院生数は75,372人。

★異業種3社に就職した博士号取得者の意識調査 「大学にはポストも魅力も不足? より良い研究環境求め一般企業へ」
https://sci-news.co.jp/topics/3875/

博士入社社員を対象とした アンケート集計結果
日本電信電話株式会社(NTT)、富士通株式会社、株式会社三菱ケミカルホールディングス
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20200806/siryo3.pdf

 民間企業に行った博士のアンケートという珍しいものです。

安倍総理は第42回新型コロナウイルス感染症対策本部を開催しました
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/202008/28corona.html

新型コロナウイルス感染症に関する今後の取組(令和2年8月28日対策本部決定)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/houkoku_r020828.pdf

第42回(令和2年8月28日開催)資料
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/sidai_r020828.pdf

新型コロナウイルス感染症に関する今後の取組
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00034.html

新型コロナウイルス感染症に関する差別・偏見の防止に向けて(大臣メッセージ)(令和2年8月25日)
https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/mext_00122.html

 政府は新型コロナウイルスに対し、5つの目標のため7つの取り組みをするとされています。

★なぜ米国はパンデミックに打ち勝てないのか?:アンソニー・ファウチが語る新型コロナウイルスとの闘い(前編)
https://wired.jp/2020/08/28/anthony-fauci-explains-why-the-us-still-hasnt-beaten-covid-1/

新しい感染症によるパンデミックは、またいつか発生する:アンソニー・ファウチが語る新型コロナウイルスとの闘い(後編)
https://wired.jp/2020/08/29/anthony-fauci-explains-why-the-us-still-hasnt-beaten-covid-2/

 アメリカを率いるファウチ氏のインタビュー。ファウチ氏ですがトランプ政権には嫌われているようで、手術で意識がない時に新方針を決められてしまうなど、厳しい状況に追い込まれています。

CDCの新指針、ファウチ所長が懸念表明
https://www.cnn.co.jp/usa/35158741.html

★The danger of DIY vaccines
https://science.sciencemag.org/content/369/6507/1035.full

 サイエンス誌の巻頭言。自分でやるワクチン研究、DIYワクチンがもたらす倫理的問題について警鐘を鳴らしています。

★Africa declared free from wild polio — but vaccine-derived strains remain
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02501-3

アフリカでポリオ根絶 WHOが宣言 残るはアフガンとパキスタン2カ国に
https://news.yahoo.co.jp/articles/5586cbb298051d34fb4d380637300461386db625

 大きな出来事です。

★科学技術に関する国民意識調査-新技術の社会受容性-[調査資料-296]の公表について
https://www.nistep.go.jp/archives/45445

★「研究大学における教員の雇用状況に関する調査」速報版の公表について
https://www.nistep.go.jp/archives/45311

 NISTEPの重要資料。後者では大学(RU-11)において全年代の全職種にわたり高齢化が進んでいるという大きなデータです。

★How Mauritius is cleaning up after major oil spill in biodiversity hotspot
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02446-7

日本学術会議の提言や報告です。

2020年 8月31日
提言「ゲノム医療推進に向けた体制整備と人材育成」(PDF形式:941KB)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t294-4.pdf

2020年 8月31日
提言「発達障害への多領域・多職種連携による支援と成育医療の推進」(PDF形式:525KB)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t292-7.pdf

発達障害の情報提供、専門性に見合った診療報酬を-学術会議が提言、多領域・多職種連携強化が必要
https://www.cbnews.jp/news/entry/20200831210650

2020年 8月28日
提言「工学システムの社会安全目標の新体系」(PDF形式:737KB)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t293-5.pdf

2020年 8月28日
提言「物理学における学問分野に基づく教育研究(DBER)の推進」(PDF形式:1,025KB)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t295-3.pdf

2020年 8月27日
提言「博物館法改正へ向けての更なる提言~2017年提言を踏まえて~」(PDF形式:914KB)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t294-3.pdf

2020年 8月26日
提言「すべての人に無償の普通教育を 多様な市民の教育システムへの包摂に向けて」(PDF形式:580KB)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t295-2.pdf

2020年 8月25日
提言「「地理総合」で変わる新しい地理教育の充実に向けて―持続可能な社会づくりに貢献する地理的資質能力の育成―」(PDF形式:1,235KB)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t295-1.pdf

2020年 8月25日
提言「人類の未来を開くフロンティア人工物工学の展開のために」(PDF形式:920KB)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t293-4.pdf

2020年 8月25日
提言「気候変動に伴い激甚化する災害に対しグリーンインフラを活用した国土形成により“いのちまち”を創る」(PDF形式:3,056KB)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t294-2.pdf

2020年 8月25日
報告「工学システムに対する安心感と社会」(PDF形式:946KB)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-h200825.pdf

★過去論文の図の引用に使用料を要求されるとは
許すまじ、寡占化した専門出版社による科学への妨害
https://webronza.asahi.com/science/articles/2020081500001.html

性的虐待で起訴された大富豪による科学界への資金提供が浮き彫りにした問題とは?
https://gigazine.net/news/20200826-jeffrey-epstein-money-distort-research/

 エプスタイン氏が亡くなって1年余り。

「科学研究を支援する財力を持った個人が、『自身の興味をそそる』という理由だけで促進する研究分野を選ぶことが可能な時、科学研究の完全性が損なわれてしまう」というものだとオレスケス氏は指摘。

★Potential impact of missing outcome data on treatment effects in systematic reviews: imputation study
https://www.bmj.com/content/370/bmj.m2898

★米国、NASAの研究者を逮捕 中国との関係隠蔽で
https://jp.sputniknews.com/world/202008257719312/

★Confusion over Europe’s data-protection law is stalling scientific progress
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02454-7

★Scientists protest budget cuts in Brazil
https://www.scidev.net/global/funding/news/scientists-protest-budget-cuts-in-brazil.html

In Brazil’s wealthiest state, scientists fear a budget plan could cripple research
https://www.sciencemag.org/news/2020/08/brazil-s-wealthiest-state-scientists-fear-budget-plan-could-cripple-research

ブラジルの科学予算削減に対し科学者が抗議。

★How I managed my work and personal life as a sole parent during the pandemic
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02329-x

 一人親研究者がどのようにパンデミック下で仕事と家庭を両立したか。

★WORKING LIFE
One, two, three, thrive
https://science.sciencemag.org/content/369/6507/1138

I struggled in grad school-until I learned to set realistic goals
https://www.sciencemag.org/careers/2020/08/i-struggled-grad-school-until-i-learned-set-realistic-goals

★Scientists aren’t trained to mentor. That’s a problem
https://www.sciencemag.org/careers/2020/08/scientists-aren-t-trained-mentor-s-roblem

 確かに研究者はメンターになるトレーニングはしておらず、それが様々な問題を引き起こしています。

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“Science Communication News”
[SciCom News] No.885 2020年9月1日号 巻頭言
【発行者】一般社団法人科学・政策と社会研究室(担当 榎木英介)
【編集者】Science Communication News編集部
【E-Mail】 office@kaseiken.org
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国循阪大研究不正の衝撃

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★発行部数 2,563部(8月25日現在)
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     ◆◇◆  Science Communication News ◆◇◆
         No.884 2020年8月25日号 巻頭言
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大学のオンライン授業に関する全国大学教員アンケートを実施中(締切8月31日)
https://cactuscommunications.formstack.com/…/sciencetalks_o…
新型コロナウイルス禍で日本の多くの大学がオンライン授業を導入しました。多くの大学教員・学生の方が初めてオンライン授業を経験し、現場では様々な意見が出ています。研究者・科学政策の専門家・企業と市民を繋ぐコミュニティ、サイエンストークスでは、研究者有志により大学のオンライン授業に関するアンケートを開始しました。本アンケートをもとに、YouTubeチャンネル、ScienceTalks TVで9月に大学オンライン授業の様々な論点を語る動画を配信いたします。また、希望者の方には調査レポートを共有いたします。
オンライン授業に関わるすべての教員の方々のご協力を何卒よろしくお願いいたします。
YouTubeチャンネルへの登録もぜひおねがいします
https://www.youtube.com/c/ScienceTalksJapan/

【巻頭言】
★国循阪大研究不正の衝撃
2020年8月18日~2020年8月25日
カセイケン代表 榎木英介

 以前から指摘はありましたが、国立循環器病院研究センターと大阪大学に所属していた研究者の研究不正が明らかになりました。

★研究所元職員による研究活動上の特定不正行為について
http://www.ncvc.go.jp/topics/20200818.html

研究活動上の特定不正行為に関する調査結果について
https://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/topics/2020/08/20200818001

 調査委員長として、ベストセラーの著書や書評で有名な阪大の仲野徹教授が関わっています。研究不正は調査に関わる仲野氏のような現役研究者の時間と労力を奪ってしまうという側面があることは認識すべきです。

第104回先進医療技術審査部会 資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13062.html

 研究不正発表の2日後におこなわれた厚労省の先進医療技術審査部会で、早速取り上げられています。

資料11-2 研究活動における特定不正行為とJANP Studyについて(大阪大学医学部附属病院
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000660920.pdf

申請医療機関からの報告 (大阪大学医学部附属病院)
[参考論文における研究不正行為による研究実施計画の変更について]
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000660921.pdf

 撤回された論文の一つは、hANPが肺がんの転移抑制に効果があるかを調べていた臨床研究のJANP Studyの参考論文となっており、JANP Study自体の妥当性に大きな疑問が投げかけられています。

「医師が論文5本で捏造や改ざん」 阪大と国循が発表
https://www.asahi.com/articles/ASN8L6J5VN8LPLBJ006.html

 有料部分で恐縮ですが、カセイケン榎木がコメントしています。コメントでは、患者さんに薬が投与された臨床研究の根拠が揺らいでいるということは、医療倫理としても大きな問題があるのではないかと述べました。

肺がん治療で論文5編に不正 大阪大、元医員を処分
https://www.chunichi.co.jp/article/106485

「先進医療の中止も想定」 阪大の研究不正で国審査部会
https://www.asahi.com/articles/ASN8N7FQ9N8NULBJ004.html

 そもそもの根拠となったPNAS論文は、「メガコレクション」(大規模修正)があったとして、以前から問題視されていました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%87%8F%E8%A8%82%E6%AD%A3_(%E8%AB%96%E6%96%87)

国内のミスコンダクト事例とその背景
https://drive.google.com/file/d/1L-JwzfhXGaPac1mjJq7Tl-HsD72Fjmr2/view

A 2015 PNAS paper is six pages long. Its correction is four pages long.
https://retractionwatch.com/2018/08/07/a-2015-pnas-paper-is-six-pages-long-its-correction-is-four-pages-long/

Pubpeerでも議論されています。
https://blog.pubpeer.com/publications/C4D85860F12DA1F1B0F4A6D39A9F0D

 今後このPNAS論文も調査対象になるとのことですが、研究不正が認定されれば、国費が投入された先進医療の研究が意味なくなるわけで、重大な問題です。

 気になるのは、健康被害の有無です。

第79回先進医療技術審査部会
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000211852_00008.html

の資料7
https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/000452801.pdf

でこの試験のことが書かれていますが、

本試験のハンプ投与群で 4 例の脳梗塞が発症したことがあり

 と気になる文章が出ています。「独立安全性モニタリ ング委員会では左上葉切除など術式が大きな原因と考察されている」とのことですが、精査していただきたいと思います。

 今回の研究不正では、筆頭著者のみが責任を負うことになりましたが、それでよかったのかも含め、しっかりとみていく必要があります。

 筆頭著者の方は2017年に日経新聞に取り上げられていました(元サイトが消えたのでアーカイブをリンクします)
http://web.archive.org/web/20191102213043/https://www.nikkei.com/article/DGXMZO16400660V10C17A5X13000/

 サクセスストーリーが美しく語られていますが、素手でマイクロピペットを持った写真があるなど、ややちぐはぐな感じもしています。記事の最後には

 「ハンプ」はその先頭集団。がん転移抑制剤として脚光を浴びる日は来るのか。答えは3年後だ。

 と書かれていますが、3年後のいま、こうして取り上げられることを予想していたのでしょうか。

 話は変わって新型コロナウイルスですが、ピークが過ぎたのではないかと言われています。果たして「第2波」はこのまま収束するのか、安心はできません。

新型コロナウイルス感染症対策分科会
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/yusikisyakaigi.html#3

第6回資料
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/corona6.pdf

新型コロナウイルス感染症のワクチンの接種に関する分科会の現時点での考え方(PDF/153KB)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/vaccine_kangae.pdf

第7回資料
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/corona7.pdf

大都市の歓楽街に対する迅速な感染拡大防止と中長期的な感染防止を目的とした提言(PDF/114KB)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/kanrakugai_kansenboushi.pdf

 日本の新型コロナウイルス対策に関しては、BMJの巻頭言で考察されれています。

Resurgence of covid-19 in Japan
https://www.bmj.com/content/370/bmj.m3221

 コミュニケーションの問題や政府の透明性の問題が課題として挙げられています。

★【独自】新型コロナ専門家会議の発言録入手 “検証”阻む黒塗りの壁
https://this.kiji.is/669379030982689889

 検証もできない情報公開では不信感が増すばかりです。

★コロナ専門家への情報隠し批判 適切な発信が不安緩和
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62897800R20C20A8X90000/

 田中幹人さんのインタビュー。

★科学的根拠が明示されない日本の感染症対策の咎
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61732

★大学のキャンパス再開が難しい理由と、政府に求められる大学支援
https://news.yahoo.co.jp/byline/murohashiyuki/20200821-00191226/

★外国人留学生の入国、月内にも緩和 再入国は全面解禁へ
https://www.asahi.com/articles/ASN8P7648N8PUTFK008.html

 関係機関は学生が厳しい状況に直面している問題に早急に対応してほしいと思います。

 学生の苦境は日本だけではありません。

★COVID-19 Outbreaks Occur as Students Return to Campus
https://www.the-scientist.com/news-opinion/covid-19-outbreaks-occur-as-students-return-to-campus-67830

★Pandemic harms Canadian grad students’ research and mental health
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02441-y

★Signs of depression and anxiety soar among US graduate students during pandemic
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02439-6

★Pandemic on campus: tell us how your institution is coping
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02452-9

★Millions of students are returning to US universities in a vast unplanned pandemic experiment
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02419-w

★Grad students challenge university-mandated COVID-19 agreements
https://www.sciencemag.org/news/2020/08/grad-students-challenge-university-mandated-covid-19-agreements

★How schools can reopen safely during the pandemic
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02403-4

★「記者は気持ちいいかもしれないが…」新型コロナの速報合戦、専門家分科会メンバーが批判
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/covid-19-media

★問われる科学と政治の距離 コロナ禍「透明性こそ重要」
https://www.asahi.com/articles/ASN8M3RS1N8CUPQJ00D.html

★INSDCの参加機関およびNLM、科学コミュティーSARS-CoV-2配列データの共有を促す声明を発表
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/sti_updates/?id=12234

★‘It’s absurd’: Coronavirus researcher shut down by US funding agency vents frustrations
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02473-4

★A dangerous rush for vaccines
https://science.sciencemag.org/content/369/6506/885

Knowledge transfer for large-scale vaccine manufacturing
https://science.sciencemag.org/content/369/6506/912.full

 ワクチン開発の前のめりな姿勢に懸念の声が出ています。

★第5回「新型コロナ対策のための全国調査」からわかったことをお知らせします。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13101.html

感染防止に配慮したつながり支援等の事例集を公表します
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13142.html

新型コロナウイルス感染症対策における市民の自発的な行動変容を促す取組(ナッジ等)の募集について(結果)
https://www.env.go.jp/press/108269.html

 ナッジに関してはかねがね注目してきました。ここで取り上げられたのは、香川の小中学校の例でソーシャルディスタンスをブリで表すというものです。

 そのほか
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/COVID-19_r.pdf

 に様々な事例が紹介されています

 人の意欲に頼るだけではなかなか行動変容はできません。ナッジと組み合わせ、好事例が多く出ることを願っています。

★大雨特別警報と警戒レベルの関係を分かりやすくします(気象庁
https://www.jma.go.jp/jma/press/2008/21a/20200821_tokubetsukeihou_kaizen.html?833

 警報と避難行動。分かりやすいことが一番です。

★Scientists worried the pandemic would cause malaria deaths to soar. So far, it hasn’t happened
https://www.sciencemag.org/news/2020/08/scientists-worried-pandemic-would-cause-malaria-deaths-soar-so-far-it-hasnt-happened

 COVID-19の蔓延でマラリアの死者が増加するのではないかと言われていましたが、そうならなかった、それはなぜかという記事です。

東京大学コンサルティング会社を立ち上げた理由
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00006/081700103/

東大、40年債で200億円 国立大初の市場調達
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62883610R20C20A8000000/

 東大が大学債を発行したり、コンサルティング会社を作ったりと攻めに出ています。

★ 提言「「人口縮小社会」という未来-持続可能な幸福社会をつくる-」(PDF形式:747KB)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t296-1.pdf

記録「研究データに関する北京宣言」(PDF形式:787KB)
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kiroku/3-20200629.pdf

提言「大学入試における英語試験のあり方についての提言」(PDF形式:755KB)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t292-6.pdf

報告「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 教育学分野」(PDF形式:608KB)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-h200818.pdf

★From ACTH to DNA: the rise of acronyms in research
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02466-3

 1950年以来の論文に使われている略語調査。使われているのは一部と。

 分野により異なる略語は悩みの一つです…。

★「女性優遇は非生産的」 掲載の独化学誌、批判浴び謝罪
https://www.asahi.com/articles/ASN8L5TWSN8HUBQU00M.html

★Black scientists matter
https://science.sciencemag.org/content/369/6506/884

★Author declaration: have you considered equity, diversity and inclusion?
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02429-8

私たちは、科学雑誌が論文を投稿する際に、著者に研究の実施が多様性、公平性、包摂性を考慮しているかどうかを宣言するように求めることで、このようなバイアスの例を克服することができると提案しています。

 日本では残念ながら無意識も、有意識もバイアス偏見だらけです。なんとかしなければなりません。

★名和豊春・北大前総長が沈黙を破った!「私が解任された本当の理由」
https://hre-net.com/syakai/kyoiku/46985/

★China’s research-misconduct rules target ‘paper mills’ that churn out fake studies
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02445-8

★片っ端からDNA 協力しないと知らぬ間に親類の所へ
https://www.asahi.com/articles/ASN8Q11CQN7ZULFA011.html

犬探して貼り紙…それだけでDNA「一生、容疑者扱い」
https://www.asahi.com/articles/ASN8Q119KN8PULFA027.html

容疑者の多くからDNA採取 DBに130万件と判明
https://www.asahi.com/articles/ASN8P6Q8HN7QULFA012.html

★750 Million GM Mosquitoes Will Be Released in the Florida Keys
https://www.the-scientist.com/news-opinion/750-million-gm-mosquitoes-will-be-released-in-the-florida-keys-67855

★ヒト受精卵に対するゲノム編集の臨床利用に関する意識調査
https://k5.net-research.jp/e/1141901/login.php?cid=1

ノーベル賞最有力候補「ゲノム編集」が本命とは言えない理由
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74679
https://news.yahoo.co.jp/articles/09a390ccb689dcc922168893a552dd7f01ebfcf1

★次世代の遺伝的介入(ゲノム編集やエピゲノム編集など)の是非を分析するための倫理的枠組みについて
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/200820-140000.html

Destination, Mars! Pictures celebrate the launch of three bold missions
https://www.nature.com/articles/d41586-020-01966-6

 火星がホットスポットになっています。

★New U.S. ethics board rejects most human fetal tissue research proposals
https://www.sciencemag.org/news/2020/08/new-us-ethics-board-rejects-most-human-fetal-tissue-research-proposals

★California Wildfires Threaten UC Campus, Telescopes
https://www.the-scientist.com/news-opinion/california-wildfires-threaten-uc-campus-telescopes-67854

 多発する森林火災の影響は大学や研究に及びます。

★‘You can’t imagine the disaster we’re living in’: Lebanon’s researchers struggle to cope with explosion aftermath
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02437-8

 あの大爆発の影響は想像以上。

★「保護」から「共有」へ大転換、EUの新データ戦略は何を意味するか
https://www.technologyreview.jp/s/215976/the-eu-is-launching-a-market-for-personal-data-heres-what-that-means-for-privacy/

 EUの戦略は我々にも影響を与えます。

★My first grad school adviser made life miserable. Choose yours wisely
https://www.sciencemag.org/careers/2020/08/my-first-grad-school-adviser-made-life—iserable-choose-yours-wisely

Choose your adviser wisely
https://science.sciencemag.org/content/369/6506/1026

 指導教員の選び方。間違うと悲惨なことになるのは洋の東西を問いません。

大学院は、忍耐と忍耐力を必要とする大変で長い道のりです。自分と相性の良い研究室を見つけることは非常に重要です。私は、研究室に入る前に、私の失敗から学び、十分な注意を払って研究室に入ることをお勧めします。多くの質問をし、多様な意見を求めてください。

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“Science Communication News”
[SciCom News] No.884 2020年8月25日号 巻頭言
【発行者】一般社団法人科学・政策と社会研究室(担当 榎木英介)
【編集者】Science Communication News編集部
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現状に適応することと変えることの間に

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★発行部数 2,561部(8月18日現在)
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     ◆◇◆  Science Communication News ◆◇◆
         No.883 2020年8月18日号 巻頭言
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大学のオンライン授業に関する全国大学教員アンケートを実施中(締切8月31日)
https://cactuscommunications.formstack.com/…/sciencetalks_o…
新型コロナウイルス禍で日本の多くの大学がオンライン授業を導入しました。多くの大学教員・学生の方が初めてオンライン授業を経験し、現場では様々な意見が出ています。研究者・科学政策の専門家・企業と市民を繋ぐコミュニティ、サイエンストークスでは、研究者有志により大学のオンライン授業に関するアンケートを開始しました。本アンケートをもとに、YouTubeチャンネル、ScienceTalks TVで9月に大学オンライン授業の様々な論点を語る動画を配信いたします。また、希望者の方には調査レポートを共有いたします。
オンライン授業に関わるすべての教員の方々のご協力を何卒よろしくお願いいたします。
YouTubeチャンネルへの登録もぜひおねがいします
https://www.youtube.com/c/ScienceTalksJapan/

【巻頭言】
★現状に適応することと変えることの間に
2020年8月11日~2020年8月18日
カセイケン代表 榎木英介

 お盆シーズンを挟んだので、ニュースは少なめです。

 新型コロナウイルスの拡大は頭打ちの印象もありますが、警戒を緩めてはいけません。医療が逼迫している地域もあります。

★「反自粛」クラスターフェス 自粛警察とは正反対のアピール 参加する心理とは
https://mainichi.jp/articles/20200816/k00/00m/040/125000c

 先週もお伝えしましたが、こうした反自粛の動きが出ています。

 毎日新聞の写真に「反ムーンショット計画」と書かれたプラカードが写っており、目を惹きましたが…。

 反自粛を唱えることは、言論の自由であり、それ自体は権利です。

 一方、公衆衛生学的には反自粛はマイナスに働くわけで、ジレンマですね…。自粛により不利益を被り、かつ、自分自身は感染してもそれほどダメージがないと思われている若い世代に鬱憤が高まっていると言えるでしょう。

 先週も書きましたが、「新型コロナはたたの風邪」という主張は、風邪の定義をアップデートすることで受け入れられる可能性があります。

 とは言え、研究が進んでいるとは言え、長期的な影響含め未知なことも多く、この段階で楽観も悲観もできないはずです。熱中症などと死者数を比較し、新型コロナではまだ大して死んでないと強調する人がいますが、既知のリスクと未知のリスクの安易な比較は問題です。

 人類は未知のものに長く耐えられない…。反自粛が突きつけるものは決して笑って無視できるものではありません。

★Science誌記事和訳『立ち入った個人情報の質問は、就職面接にはふさわしくない』
https://sivad.hatenablog.com/entry/2020/08/16/163850

 ネット論客のSivadさんがサイエンスキャリアが掲載した記事を和訳してくださいました。

 この記事自体はすでにSNS上で大きな話題になっていますが、改めて日本語訳を見ると、この問題がいかに深刻かわかります。

「子供を産む予定はありますか?」その質問は唐突に出てきました。ある教授のオフィスでポスドクの仕事の面接をしていたとき、話題が突然、私の研究から子宮に移ったのです。私は硬直してしまい、どう反応すればいいのか分かりませんでした。自分の私生活が教授の関心事とは思いませんでした。しかし、私はその仕事に興味があり、返事をしないと採用されないのではないかと心配でした。だから、知らない人とシェアするとは思ってもみなかった私の私生活の詳細を彼に話しました。

 この記事が世界に拡散し、日本の研究環境が世界基準からいかに遅れを取っているかが広く知られるようになりました。

 当然こうなれば、優秀な外国人女性研究者が日本に来なくなると思います。

 しかし、日本のアカデミアは、優秀な外国人研究者などもしかして求めていないのではないかという疑問を抱いてしまい、ハッとしました。

 日本語という言語に守られた閉じた環境の中で、ゆるい基準で人事を回す…。

 女性研究者に突き付けられる数々の「難癖」も、優秀な女性研究者が参入されると、自分のポストが脅かされるという男性のご都合主義なのではないか…。

 基礎研究を中心に、世界と「ガチンコ」で競っている分野もありますが、一部の分野では、日本語の論文でさえ博士論文の一部になります。

★5A 名古屋大学・博士論文の盗用疑惑事件
https://haklak.com/page_2020_Nagoya_Plagiarism.html

 日本語で書かれた一つの論文が、無許可で共著者の一人が名古屋大学の博士論文の一部にしたというもので、本当だとすると納得がいきません。

 これに加え、日本語論文が博士論文の一部になることに批判の声が出ています。

 博士号の基準はもちろん分野によって異なるわけで、何もインパクトファクターのある英文誌に発表すれば良いというものではありません。

 しかし、博士号の基準が世界に通用しない日本独特の緩い基準だとしたら…。

 日本の博士号は「ディプロマミル」(学位工場)ではないかと言われかねません。

 STAP細胞事件の時、博士論文に盗用などがあっても修正さえすれば学位を剥奪されないという事例が明らかになっています。

★福島・伊達市住民被ばく論文の撤回がもたらしたもの
同意のないデータ使用、被ばく線量過小評価のミスも
https://www.47news.jp/5132105.html

 このケースでは福島県医大が筆頭著者の学位を取り消しました。

 大学をはじめとする研究者を取り巻く状況は厳しく、研究者は政策の被害者という側面が強調されることが多々あります。そういう側面もあるでしょう。

 しかし、科学コミュニティ自身が問題を抱えているのも事実で、それは中の人も含め変えていかなければなりません。

 科学コミュニティからは、現状は仕方ないからそれに適応しよう、という声がよく聞かれます。

 女性研究者に家族や子供の有無を聞くことに対し、「それは良くないと分かっているけれど、現実は家族や子供がいることが研究にかけられる時間の減少になっているのだから、仕方ないではないか」と反論する人もいます。

 でも、それだといつまで経っても状況は変わりません。

 ただ、希望はあります。まだまだ不十分ですが、少しずつですが、状況は改善されつつあります。それは、環境への適応だけを考えるのではなく、環境を変える行動をした人たちがいたからです。

 その方々は地位を奪われ、機会を奪われ、自らは研究者として「成功」しなかったかもしれません。けれど、次の世代のために、と利他の精神で行動した人たちが何十年と活動を続けてきたから、状況は変わってきているのです。

 私たちカセイケンのメンバーは、非常勤講師で大学に勤務する者はいるものの、在野の人間が主体で、自らのポストや研究費を獲得するために活動しているわけではありません。

 あくまで国民の一人として、日本の科学が健全でかつ活力のあるものであることを願っており、それが国民の、ひいては世界のための貢献につながると思っているからです。

 ただ、私たちだけでは、外側からアプローチするだけでは、状況は変わらない…。利他の心あるアカデミア内部の人たちとも協力して、ぜひこの状況をかえていきたい…。

 新型コロナウイルスの蔓延の中なかなか難しい部分もありますが、状況を変える為の行動を企画中です。決まりましたらこのメルマガでご紹介させていただきます。

★「世界的知性」スティーブン・ピンカーが、米国「リベラル」から嫌われる理由
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74895

しかし、進化心理学で社会問題を扱うことには、「文化や社会制度が原因ではなく、生まれつきの傾向が原因であるのだから、批判しても仕方がない」と現状維持をうながしたり、「自然なことなのだから、正しいことなのだ」と正当化したりする、というイメージがつきまとう。

 この辺り、今の日本の研究環境が置かれた状況にも通じるように思ったりもします。

★Five tips for boosting diversity on campus
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02367-5

 多様性の重要性。

Identify sources of recruitment.
Consider the speaker roster.
Re-evaluate physical spaces.
Celebrate small wins of everyone in the lab.
Gather educational materials.

 の5つ。

Fed-up archaeologists aim to fix field schools’ party culture
https://science.sciencemag.org/content/369/6505/757.full

 野外で活動する考古学という分野のカルチャーに問題ありと…。酒飲み、セクハラ…。

★Coronavirus lockdown lessons from single-parent scientists
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02387-1

 一人親の研究者の苦しみ。

★‘We’re losing an entire generation of scientists.’ COVID-19’s economic toll hits Latin America hard
https://www.sciencemag.org/news/2020/08/we-re-losing-entire-generation-scientists-covid-19-s-economic-toll-hits-latin-america

★全国立大に輸出管理の専門部署 86校、先端技術の海外流出防止
https://www.chunichi.co.jp/article/102975

先端技術者の信用度に資格新設へ 中国への警戒感にじむ
https://www.asahi.com/articles/ASN8D76FBN8DUTFK003.html

研究現場は中国頼み 技術流出防止、規制強化に消極的
https://www.chunichi.co.jp/article/103173

 もはや中国の方が進んでいるのではないか、という声も聞かれますが…。

★大学入試に関するweb意見募集について
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2020/mext_00032.html

 文科省

★提言「生活習慣病予防のための良好な成育環境・生活習慣の確保に係る基盤づくりと教育の重要性」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t293-3.pdf

報告「主権者教育の理論と実践」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-h200811.pdf

提言「外国人の子どもの教育を受ける権利と修学の保障――公立高校の「入口」から「出口」まで」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t289-4.pdf

 日本学術会議

★「エスキモー星雲」など天体の通称、NASAが見直し表明
https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2020/08/20200814_01.html

★Senior U.S. lawmaker wants National Academies to scrutinize racism in science
https://www.sciencemag.org/news/2020/08/senior-us-lawmaker-wants-national-academies-scrutinize-racism-science

★Signs of ‘citation hacking’ flagged in scientific papers
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02378-2

 査読者が自分の論文を引用文献に入れろと強要する問題。

★Universities scrub names of racist leaders — students say it’s a first step
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02393-3

★米国では大学教員が大量解雇、新型コロナが加速する大学再編
https://webronza.asahi.com/science/articles/2020080400006.html

 人文系の教員が苦境に。

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[SciCom News] No.883 2020年8月18日号 巻頭言
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新型コロナウイルスVSヒトの忍耐

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         No.882 2020年8月11日号 巻頭言
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【巻頭言】
新型コロナウイルスVSヒトの忍耐
2020年8月4日~2020年8月11日
カセイケン代表 榎木英介

 新型コロナウイルスの感染拡大は真夏の今になっても続いています。

新型コロナウイルス感染症対策分科会(第5回)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/corona5.pdf

今後想定される感染状況と対策について 令和2年8月7日(金)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/kongo_soutei_taisaku.pdf

お盆休みにおける帰省等のあり方について
https://corona.go.jp/news/pdf/obonyasumi_0805.pdf

今後の感染状況の変化に対応した
対策の実施に関する指標及び目安について
https://corona.go.jp/news/pdf/jimurenraku_0811.pdf

 このウイルスと付き合い始めてはや半年。

 私も皮膚炎になるほど手洗いやアルコール消毒などをしつつ、日々過ごしています。

 しかし…。

★コロナ疲れの日本、感染増の東京で高まる反発心
https://www.cnn.co.jp/world/35157944.html

「コロナはただの風邪」平塚正幸 クラスターデモ行い批判殺到
https://news.goo.ne.jp/article/jisin/nation/jisin-https_jisin.jp_p_1883959.html

拳銃つるしマスク反対デモ 米国で広がる科学への懐疑論
https://www.asahi.com/articles/ASN8971TYN7VUHBI00T.html

科学が届かない米コロナ政策「トランプ氏に指導力ない」
https://www.asahi.com/articles/ASN862Q45N83UHBI004.html

 オバマ政権時代の科学技術担当大統領補佐官ジョン・ホルドレン氏。

欧州、広がる反マスク 「自由の侵害」と反発―新型コロナ
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020080900278&g=int

 経済的な苦境や様々な制限に耐えられなくなった一部の人々が、「新型コロナはただの風邪」と言い、行動制限に従わなくなってきています。

 それを簡単に批判することはできません。しかしこれは新型コロナウイルスにとっては非常に好都合です。こうした行動がウイルスの拡散に一役買っているわけですから。

 人々皆が「新型コロナはたたの風邪」と思えば、その通り風邪になるでしょう。その時は、今まで持っていた私たちの風邪のイメージが変わるだけです。

 結構死ぬ風邪。後遺症が残る風邪。要は「たちの悪い風邪」になるわけです。

 ただ、その時は、この「たちの悪い風邪」にかかって重症になった人は放っておくしかない、というような痛みを伴うコンセンサスを必要とするように思います。

 このパンデミック終結とは、多大な犠牲者を生み出しながら、医療が崩壊しながら、新型コロナはたちの悪い風邪という人々のマインドのチェンジ、コンセンサスができる時なのかもしれません。

PCR検査の拡大が、やっぱり必要だ
https://newspicks.com/news/5136569

★Study: Test College Students for Coronavirus Every Two Days
https://www.the-scientist.com/news-opinion/study-test-college-students-for-coronavirus-every-two-days-67787

 SNS上ではPCR検査に対する論争がいまだにあるのですが、必要な時に必要な検査ができる必要があるという点については一致点があると思っています。

★I’m not contributing to coronavirus research, and that’s okay
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02316-2

★Pandemic hits scientist parents hard
https://science.sciencemag.org/content/369/6504/609

 研究者が子供を持つことを批判する声すらある日本の現状を憂いています。

★Research Slated for Fall Will Stumble Without Undergraduates
https://www.the-scientist.com/news-opinion/research-slated-for-fall-will-stumble-without-undergraduates-67756

 学部生が大学に入れないことにより、研究に支障が。

 大学関係者にとって学部教育は研究時間を奪うものと考える人もいますが、教育と研究は大学の教員にとって共に重要なものであるのはいうまでもないことです。

★令和3年度大学入学者選抜での新型コロナウイルス感染症対策に伴う各大学等の試験期日及び試験実施上の配慮等の対応状況について
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/koudai/detail/mext_00060.html

被爆75年:深まる日本の「核のジレンマ」
https://webronza.asahi.com/science/articles/2020080800001.html

Researchers: help free the world of nuclear weapons
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02274-9

★科学技術指標2020[調査資料-295]の公表について
https://www.nistep.go.jp/archives/44972

科学論文数、中国が米国を抜き初のトップ 研究費も猛追
http://www.asahi.com/articles/ASN8752L7N86ULBJ003.html?ref=rss

中国が科学論文数で初の世界一 文科省調査、米国抜く 日本は低迷
https://www.sankei.com/life/news/200807/lif2008070048-n1.html

 恒例の重要資料。日本の研究の凋落が語られることも恒例となってしまいました。

★大阪港におけるヒアリの確認について
https://www.env.go.jp/press/108302.html

★報告「「軍事的安全保障研究に関する声明」への研究機関・学協会の対応と論点」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-h200804.pdf

★提言「新学習指導要領下での算数・数学教育の円滑な実施に向けた緊急提言:統計教育の実効性の向上に焦点を当てて」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t293-2.pdf

★提言「自動運転の社会的課題について―新たなモビリティによる社会のデザイン-」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t294-1.pdf

★提言「人の生殖にゲノム編集技術を用いることの倫理的正当性について」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t292-5.pdf

★Why Professors Are Writing Crap That Nobody Reads
https://newsin.asia/why-professors-are-writing-crap-that-nobody-reads/

 研究論文の半分は関係者以外に読まれないという悲しい現実。研究とはなんなのか根源的な問いを投げかけています。

★不透明な「宮崎早野論文」撤回~宮崎氏は博士号取り消し
http://ourplanet-tv.org/?q=node%2F2514

宮崎・早野論文に批判 研究者らがオンラインで説明会
https://news.yahoo.co.jp/articles/e6b35876de5edae9c54ab01ad6e5fba585f96060

「宮崎・早野論文」
研究不正問題
2020年8月7日記者向け勉強会
資料公開
https://science-integrity-2019.jimdosite.com/

 放射線問題と研究不正が重なった大きな問題です。引き続きフォローしていきます。

★研究活動上の不正行為に係る調査結果について(2020年8月7日)
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/about/events_news/office/kousei-chousa/news/2020/200807_1.html

京都大、論文で盗用と発表 論文を撤回 人間・環境学研究科
https://news.yahoo.co.jp/articles/3110a2339727f7e3864c4de5720926eb5fdd5fe1

★本学教員による研究費の不正使用について
http://www.kansai-u.ac.jp/mt/archives/2020/08/post_5242.html

関西大教授が研究費を不正流用 学生のバイト代に充当、処分検討
https://www.chunichi.co.jp/article/99688

男性教授が研究費を不正使用 約188万円 関西
https://news.yahoo.co.jp/articles/098b0e0a3dc8d57d59c0fd6d6df5496d8ca023e4

関西大教授が研究費を不正流用 - 学生のバイト代に充当、処分検討
https://www.nara-np.co.jp/global/2020080401002325.html

 研究不正と研究費不正流用。

★日本の知、どこへ 研究不正 データを捏造、改ざん 相互批判なく繰り返す 防止の鍵はマインドの変革
https://www.chukei-news.co.jp/news/2020/08/06/OK0002008060e01_01/

 誌面、有料記事部分ですが、榎木のコメントが掲載されています。

★How to be an ethical scientist
https://www.sciencemag.org/careers/2020/08/how-be-ethical-scientist

★The Science Sleuth Holding Fraudulent Research Accountable
https://leapsmag.com/the-science-sleuth-holding-fraudulent-research-accountable/

 「ネカトハンター」エリサベスビク氏、リトラクションウォッチ創始者Ivan Oransky氏の対談。

重慶市ポスドク導入に向け18件の措置を発表
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2020-08/07/content_76356778.htm

★「Excelが日付に変換してしまうから」一部遺伝子の名称を変更。ヒトゲノム解析の科学者ら
https://japanese.engadget.com/rename-genes-due-to-excel-043027343.html

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[SciCom News] No.882 2020年8月11日号 巻頭言
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